第78章 早く退社するのは長谷川栞に料理を作るため?

中野航平の声が背後から響き、長谷川栞の足がふっと止まった。

足音が近づく。航平は彼女の背中へ回り込み、そのまま後ろから抱きしめる。

顎をそっと彼女の頭に乗せ、すり寄せるように囁いた。

「栞……戻ってきてくれないか。蓮が悪いなら、俺が直させる。俺だって……俺のどこが悪いか言ってくれたら、直すから……」

栞は抱かれるまま、表情ひとつ動かさない。

別荘の奥からは、中野蓮の陽気な笑い声と、長谷川明子夫婦の「はははっ」という大笑いが、途切れ途切れに流れてくる。

二人がどれほど蓮に喜ばされているか、声だけで分かった。孫をあやし、膝元で笑い合う――そんな温度が、こちらにまで滲んでくる。

航平...

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